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2022.06.01
【 判 例 】
他社へ引き連れて退職しようとした
幹部職員に対する懲戒解雇処分が有効。
F不動産販売事件 大阪地方裁判所(令2・8・6判決)
X1およびX2は、不動産販売会社にそれぞれ平成10年、14年に採用され、当時、X1は県全体を統括する本部長、X2は店長の役職に就いていました。平成29年6月頃、X1は同業他社に転職することをまずX2に伝えて転職を勧誘、さらにX1、X2は他の有望な営業・事務職員にも同社を退職してX1と事業を行うことを勧誘しました。同年8月末、X1は同年12月に退職する旨の退職届を提出していましたが、この転職勧誘行為等が内部通報で発覚し、会社は就業規則に基づき、X1およびX2を懲戒解雇としました。
「転職勧誘」については、原則的には憲法22条で保障された「職業選択の自由」を基底として適法と考えられていますが、同僚等に対する転職勧誘が違法とされた判決もあります。ラクソン等事件(東京地判平3・2・25)では、従業員の転職の自由は最大限に保障されなければならないとしながらも、その引抜きが「単なる転職の勧誘の域を超え、社会的相当性を逸脱し極めて背信的な方法で行われた場合には、それを実行した会社の幹部従業員は、雇用契約の誠実義務に違反したものとして、債務不履行あるいは不法行為責任を負う」と判示しています。
大阪地裁は、本件について、
①会社において本部長および店長という重要な地位にありながら、同業他社のために転職勧誘を繰り返したこと、
②転職勧誘に際して、労働条件の上乗せや300万円もの支度金の提示をしていること、
③転職勧誘を受けたX2は、同社店舗に近接した転職先店長に就いており、その店舗探しもX1が在職中に行っていたこと、
④勧誘行為が内部通報で発覚しなければ、営業成績優秀な相当数の従業員が転職した可能性があり、会社への影響は大きかったと推測されること、
などを認定し、懲戒事由該当性を判断しています。
また、懲戒解雇の合理性・相当性に関しては、「X1及びX2の行為は、単なる転職の勧誘にとどまるものではなく、社会的相当性を欠く態様で行われたものであり、他方、X1及びX2がまもなく退職を予定していたことも考慮すると、本件解雇には、客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当と認められる」と判示しています。
〔要注意〕
なお、同業他社への転職勧誘行為に対しては、懲戒解雇が当然であると考える事業主が多いように思いますが、裁判所の判断は容易にこれを認めていないことに留意する必要があります。
(以上)