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2025.04.01
定年再雇用時に正社員との待遇の相違は不合理ではない
〔JR九州事件〕福岡地方裁判所(令6.11.8判決)
本件は、JR九州で嘱託再雇用社員として勤務する原告が定年前との待遇の相違はパート有期法8条違反であるとし、損害賠償金などの支払いを求めた事案です。福岡地裁は、基本給等の待遇の相違は不合理とはいえないとし、原告の請求を棄却しました。
【詳細解説】
不合理な待遇差を禁じたパートタイム有期雇用労働法(パー卜有期法)8条に関し、正社員と有期の再雇用社員の基本給の相違を争う事例が増えています。本件は、定年退職後、会社の嘱託再雇用社員(以下、再雇用社員)として勤務していた者が、定年前と同種の業務に従事しているにも関わらず、待遇の格差があるのはパート有期法8条違反であるとし、民法709条に基づき、損害賠償金などの支払いを求めた事案です。
判決は以下の事実を認定しています。まず、再雇用社員の定年退職前後における職務内容およびそれに伴う責任の程度は大きく異なるものではなかったが、正社員と異なり個別的同意がない限り転居を伴う転勤等を命じない取り扱いを継続し、それを就業規則上に明文化したことからすれば、再雇用社員と正社員の「配置の変更の範囲」については明らかな相違が存在した、としています。
次に再雇用社員が相当額の退職手当の支払いを受けた上で再雇用され、老齢厚生年金の受給が予定されていること、再雇用社員の待遇が労働組合との交渉・合意を得て決定されたこと、および再雇用社員が高年齢雇用継続給付金を受給できることは、定年退職前の正社員との間の待遇の相違の不合理性を否定する方向での「その他の事情」に該当するとしています。
また、基本給にも言及し、「再雇用社員の基本給および期末手当Bは、その合計額が定年退職前の基本給額の約74%~約65%程度の水準を維持し、正社員の基本給の性質および支給目的と比較すると、勤続報償的・年功的性質を有する部分の割合が高く、その賃金体系が労使交渉を経て決定されていることに加え、正社員と再雇用社員との『職務内容』は大きな相違はないが、『配置の変更の範囲』が大きく異なることを考慮すると、正社員と再雇用社員との間における基本給および期末手当Bの額の相違が不合理であるとまでは認められない」と判断しています。
さらに再雇用社員に支給されない「住宅支援金」についてこう述べています。
① 正社員は長期雇用を前提に幅広い世代、様々な家族構成が想定され、労使交渉の結果、扶養手当を再雇用社員には支給しないことになったことは不合理ではない。
② 正社員は転居を伴う転勤等が命じられる場合があり、追加的な住居費の負担が想定され、住宅支援金を再雇用社員には支給しないことは不合理ではない。
以上の理由により、原告の請求を棄却しました。
(以上)